基礎・概念

リスクアセスメント完全ガイド|手順・点数化・業種別記入例の決定版

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「リスクアセスメントをやらなければ」とわかっていても、どこから手をつければいいかわからない——。あるいは形式的に表を埋めているだけで、現場の事故が一向に減らない——。多くの現場担当者が抱えるこの壁は、「手順の理解」と「点数化の型」と「業種に合った記入例」の三つが揃っていないことから生まれる。

この記事では、リスクアセスメントの定義・法的根拠から実施手順、リスクの見積もり方(加算法・マトリクス法)、建設業と製造業の具体的な記入例、そしてよくある失敗と対策まで、実務で使える形にまとめた。各テーマの深掘り記事への入口も用意したので、安全管理の「地図」として活用してほしい。

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この記事でわかること

  • リスクアセスメントの定義と「ハザード」「リスク」の正しい使い分け
  • 労働安全衛生法28条の2(努力義務)と化学物質の義務化の法的根拠
  • 危険源の特定→見積もり→優先度づけ→対策→記録の5ステップ
  • 加算法(点数化)とマトリクス法、それぞれの計算方法と使い分け
  • 建設業(高所作業)・製造業(プレス機械)の業種別記入例
  • 形骸化させないための運用のポイントとよくある失敗

リスクアセスメントとは|定義と基本概念

リスクアセスメントとは、職場に潜むハザード(危険源)を特定し、それによって生じるリスク(危害の重篤度と発生可能性の組み合わせ)を評価・低減する一連のプロセスのことである。

「ハザード」と「リスク」は混同されやすいが、この二つは明確に異なる概念だ。

用語定義
ハザード(危険源)危害を引き起こす潜在的な根源回転する歯車、高所の足場、有機溶剤
リスク(危険性)ハザードによる危害の重篤度×発生可能性歯車への巻き込まれ(重傷)×防護なしでの月1回接触

ハザードは「そこにあるもの」であり、すぐには消せないことも多い。リスクアセスメントの目的は、ハザードを完全に排除することではなく、リスクを許容できるレベルまで下げる優先順位と対策を見える化することだ。ハザードとリスクの違いを詳しく知りたい場合は、専門記事も参照してほしい。

なぜリスクアセスメントが必要か

厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」によると、2024年の労働災害による死亡者数は746人(新型コロナによるものを除く)で過去最少となった一方、休業4日以上の死傷者数は135,718人と4年連続で増加している。死亡は減少傾向にあるが、休業を要するケガは増え続けているのが現実だ。

この背景にあるのは、「重大事故は減ったが、日常的なケガのリスクは放置されている」という構図である。ヒヤリハット・軽傷事故の段階でリスクを評価し、手を打つことが求められる。


法的根拠|努力義務から義務化へ

労働安全衛生法28条の2(一般産業)

労働安全衛生法第28条の2は、事業者に対してリスクアセスメントの実施を努力義務として課している(2005年改正で追加)。「努力義務」とは法律上の強制力こそないが、行政指導の対象となり、労働災害発生時の責任判断にも影響する。厚生労働省は同法に基づく指針(「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」)を定めており、実務の基本フレームはこの指針に沿って進めるのが標準だ。

指針では実施タイミングとして①設備・原材料の新規導入・変更時、②作業方法・手順の変更時、③新たな危険有害性の把握時、を明示している。「年1回の定期実施」だけでは不十分であり、現場が変わるたびに随時実施することが求められる。

化学物質のリスクアセスメント(義務化)

化学物質については、労働安全衛生法第57条の3により、GHS分類で危険性・有害性が確認された化学物質(安衛法通知対象物質)のリスクアセスメントは義務となっている(2016年6月施行)。さらに2022〜2026年の改正で「自律的管理」への移行が段階的に進められており、SDS(安全データシート)に基づく定量的なリスク評価が事業者に求められるようになった。

化学物質のリスクアセスメント手順・SDS活用方法は、化学物質のリスクアセスメント専門記事自律的化学物質管理の実務で詳しく解説している。

対象根拠法令義務区分
一般の危険作業・有害業務安衛法28条の2努力義務(事実上必須)
GHS分類済み化学物質(通知対象物質)安衛法57条の3義務
化学物質のばく露濃度管理安衛法57条の3・関係省令義務(自律的管理)

実施手順|5ステップで進めるリスクアセスメント

厚生労働省指針に基づく標準的な手順は次の5ステップだ。各ステップを順番に進めることで、漏れなく・再現性の高いRAを実施できる。

ステップ1:危険源(ハザード)の特定

まず「何が危ないか」を洗い出す。方法は主に三つある。

  • 作業工程の観察:実際の作業を見て、エネルギー源(回転・高所・電気・熱など)と危険点を特定する
  • 過去の災害・ヒヤリハットの分析:過去に起きた事象は、ハザードが顕在化した証拠だ。ヒヤリハット完全ガイドと連動させると抜け漏れを減らせる
  • チェックリストの活用:業種別のハザードチェックリストを使うと、経験の浅い担当者でも体系的に拾える

この段階では「リスクの大小」は考えず、とにかくハザードを広く拾うことが重要だ。1件見落とすと、後のステップで対策対象から外れてしまう。

ステップ2:リスクの見積もり(点数化)

特定したハザードごとに、「どれくらい危ないか」を数値化する。代表的な方法が加算法マトリクス法の二つで、次のセクションで詳しく説明する。

ステップ3:優先度づけ(リスクの評価)

見積もったリスク値をもとに、対策の優先順位を決める。点数が高いものから対応するのが基本だ。厚労省指針では、リスクレベルを目安として「許容できないリスク」「合理的に低減が必要なリスク」「許容できるリスク」の三段階で分類することが多い。

ステップ4:リスク低減措置の検討・実施

対策は優先順位の高い「本質的対策」から検討する。安全対策の優先順位はSTOP原則(Substitution→Technological→Organization→Personal)で考えるとよい。

優先順位対策の種類
1位本質的安全化(排除・代替)ハザードそのものをなくす、危険の少ない材料に変更
2位工学的対策(防護・隔離)安全カバー取付、インターロック設置、立入禁止柵
3位管理的対策(手順・教育)作業手順書作成、資格者限定、立会い確認
4位保護具(PPE)安全帯、保護眼鏡、防毒マスクの着用義務付け

保護具(PPE)は「最後の砦」であり、上位対策が取れない場合の補完と位置づける。PPEだけで終わる対策は形骸化のリスクが高い。

ステップ5:記録と見直し

実施したRAは記録として保存することが重要だ。記録は労働基準監督署の調査や、万一の労災発生時に対策を講じていた証拠となる。また、作業内容の変更・新たなヒヤリハット発生時には内容を見直し、最新の状態に保つことがポイントだ。


リスクの点数化|加算法とマトリクス法

加算法(数値合計方式)

リスク値を「重篤度」「可能性(頻度)」「暴露頻度」の3要素のスコア合計で算出する方法だ。厚労省指針の付属書でも紹介されており、定量的な比較がしやすい。

重篤度(Severity)の目安

点数重篤度の区分想定される結果
10致命的死亡・身体の一部欠損・永続的な身体障害
6重大休業(4日以上)を要する骨折・重傷
3中程度休業(1〜3日)・軽傷
1軽微救急処置のみ・微傷

可能性(発生確率)の目安

点数可能性の区分発生の頻度感
6高い過去に同種事故があった/ほぼ毎日発生しうる
4やや高い過去にヒヤリがあった/週1回程度
2低い可能性はあるが、対策があれば稀
1ほぼない理論上あるが、現実的にはほぼ起きない

暴露頻度(Exposure)の目安

点数暴露頻度作業の実態
4頻繁1日に複数回ハザードに近接する
3時々1日1回程度
2まれ週1回以下
1非常にまれ月1回未満

リスク値 = 重篤度 × 可能性 × 暴露頻度

リスク値リスクレベル対応方針
18以上Ⅳ(許容不可)即時対策必須。対策完了まで作業禁止も検討
9〜17Ⅲ(優先対応)速やかに対策を実施(計画化して期限設定)
4〜8Ⅱ(検討対応)合理的に対策可能なら実施。次回改定時に検討
1〜3Ⅰ(許容範囲)現状維持。定期的な再確認で十分

※上記の点数区分は目安である。事業場の実態に合わせて調整して使うこと。

マトリクス法(縦横表方式)

重篤度と可能性の2軸のみでリスクをランク分けする方法だ。視覚的にわかりやすく、担当者に安全の専門知識がなくても使いやすい。

可能性:低可能性:中可能性:高
重篤度:大(死亡・重篤)
重篤度:中(休業災害)
重篤度:小(不休災害)
  • 加算法が向く場面:複数のハザードを数値で比較・ランキングしたい、記録として数値的根拠を残したい
  • マトリクス法が向く場面:現場作業員と一緒に短時間でRAを実施したい、初めてRAを導入する現場

業種別記入例|建設業と製造業の実践

建設業:高所足場作業のリスクアセスメント記入例(加算法)

作業ハザード想定される危害重篤度可能性暴露頻度リスク値レベル対策
足場上での資材運搬足場端部からの墜落死亡・重傷(3m以上)1043120手すり設置+フルハーネス型安全帯義務化
足場組立時の鋼管取扱い資材の落下下方作業員への打撃(骨折)64372飛来落下防止ネット+作業区域内立入禁止
滑りやすい踏み板上歩行つまずき・転倒捻挫・打撲34448滑り止め踏み板への交換+作業前点検
高所での電動工具使用工具の落下下方作業員への打撃62336工具へのランヤード装着義務化

この記入例のポイント

  • 墜落リスクは「重篤度10×可能性4×暴露頻度3」でリスク値120。即時対応のレベルⅣとなる。
  • 対策は保護具(フルハーネス)だけでなく、先に工学的対策(手すり)を置いている。STOP原則の優先順位を守ることが重要だ。
  • 建設業のリスクアセスメントは、建設業の労働災害と対策高所作業の安全管理と合わせて参照すると理解が深まる。

製造業:プレス機械作業のリスクアセスメント記入例(加算法)

作業ハザード想定される危害重篤度可能性暴露頻度リスク値レベル対策
プレス型へのワーク手差し起動ミスによる手部挟み込み指・手部の切断1044160両手操作機構へ交換(本質的安全化)
型交換作業型のスライド落下手部・脚部の骨折62336安全ブロック(型落下防止具)義務使用
切粉・バリの除去切粉の飛散眼への切創664144防護カバー設置+保護眼鏡着用
機械清掃(稼働中)稼働部への接触巻き込み(重傷)102360清掃は停止・ロックアウト後のみ。手順書化

この記入例のポイント

  • プレスの手差し作業はリスク値160と最高レベル。保護具(手袋)では根本解決にならないため、両手操作機構への変更という本質的安全化を優先対策に置いた。
  • 稼働中の清掃は「ロックアウト」手順の徹底が決め手。手順書化して教育に落とし込む管理的対策が不可欠だ。
  • 製造業のリスクアセスメントは、製造業の労働災害と対策プレス機械の安全対策も参照してほしい。

中間チェック:リスクアセスメントを回す仕組みはあるか

リスクアセスメントは「一度やる」ではなく「変化のたびに更新する」ものだ。作業内容・人員・設備・材料が変われば、そのつど実施・記録・周知が必要になる。この更新サイクルを手作業で回すのはコストが大きい。


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よくある失敗と対策

失敗1:ハザードの洗い出しが現場ベテランだけの経験則に頼っている

ベテランは多くを知っているが、「慣れ」から危険を見落とすこともある。若手・外国人作業員・新任担当者の視点も加えてチェックリストを使うことで、見落としを減らせる。

失敗2:リスク見積もりが主観的で毎年同じ点数

「いつも中程度」で固定化された点数は実態を反映していない。過去のヒヤリハット件数・ニアミス状況・ヒューマンエラーの頻度を根拠として数値に織り込む習慣をつけると、点数の信頼性が上がる。

失敗3:対策が「保護具の着用」だけで終わっている

PPE(保護具)は最後の砦だ。防護カバーの取付、インターロック設置、手順書改訂といった上位対策を先に検討し、PPEは補完として位置づける。対策の優先順位を記録に明示することが重要だ。

失敗4:記録が現場に周知されず、引継ぎに生かされない

RAを実施しても、その内容が現場の朝礼・安全教育に落とし込まれなければ意味がない。RA結果を安全パトロール記録・KY活動・新人教育資料と連動させる仕組みが必要だ。安全書類の効率化も参考になる。

失敗5:作業変更・設備変更の際にRAを更新していない

「設備を更新したら安全なはず」という思い込みから、変更後のRAを省略してしまうケースがある。変更は新たなハザードを生む可能性があるため、設備変更・作業方法変更のたびにRAを必ずトリガーするルールを決めておくことが肝要だ。


ヒヤリハットとRAを連動させる

リスクアセスメントは「事前のリスク評価」だが、現場では日々「ヒヤリ」が発生し、潜在リスクが顕在化する。この二つを連動させることで、RAのPDCAがより精度高く回る。

  • ヒヤリハット報告で特定のハザードへの暴露頻度が増えたら、RAの点数を見直す
  • RAで「低リスク」と評価した箇所からヒヤリが多発していれば、見積もり誤りを疑う
  • 新種のヒヤリは「発見されたハザード」として次回RAのインプットにする

安全ポスト+はQRコードでヒヤリハットをスマホ報告し、AIが4M分類まで自動化する。「ヒヤリからRAへ」の流れを情報として可視化し、更新タイミングを見逃さない仕組みをつくるのに役立つ。詳細は安全ポスト+で確認できる。

RA結果の記録と保管

実施したリスクアセスメントは、書類(電子記録を含む)として保存する。保存期間の法的規定は特段定められていないが、当該作業が続く限り最新版を維持し、廃止後も相当期間保管することが推奨される。

記録に含めるべき項目は以下の通りだ。

  1. 実施日・実施者
  2. 対象作業・作業場所
  3. 特定したハザード一覧
  4. リスクの見積もり(重篤度・可能性・暴露頻度・リスク値)
  5. 優先順位・リスクレベル
  6. 講じた(または予定する)対策内容
  7. 残留リスクとその理由

すぐに使えるRAの記録様式は、リスクアセスメント表テンプレート(無料DL)から入手できる。


免責事項
本記事は一般的な参考情報として作成したものであり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。労働安全衛生法令の解釈・適用や個別作業場への対応は、所轄の労働基準監督署、産業医、または社会保険労務士等の専門家にご確認ください。点数化の基準・境界値はあくまで目安であり、事業場の実態や業種特性に応じて適切に設定することが重要です。記載内容は執筆時点(2026年6月)の情報に基づきます。

よくある質問

Q. リスクアセスメントは法律上、義務なのか?

一般的な危険・有害業務では労働安全衛生法第28条の2に基づく努力義務だ。ただし「義務ではないからやらなくてよい」ではなく、労働災害発生時の責任判断や行政指導の観点から、実施・記録が実質的に必要とされる。一方、GHS分類で危険性・有害性が確認された化学物質(通知対象物質)については同法第57条の3により義務化されている。

Q. リスクアセスメントは何人でやればよいか?

一人担当者が机上で行うのでは、見落としが多くなる。実際の作業者(ベテランと若手を含む)、安全担当者、管理監督者が揃ったチームで実施することが推奨される。人数より「多様な視点」が重要だ。外国人作業員がいる現場では、多言語対応も考慮したい。

Q. 加算法とマトリクス法のどちらを使うべきか?

精度と記録の明確さを重視するなら加算法、現場での合意形成・スピードを重視するならマトリクス法が向く。実務では、最初にマトリクス法で全ハザードの大まかな優先度をつけ、高リスク項目だけ加算法で精緻化する、というハイブリッド運用が効率的だ。

Q. 作業工程が変わったらRAをすべてやり直すのか?

変更箇所に関連するハザードのみ見直すのが現実的だ。ただし変更が広範囲にわたる場合(設備の大規模更新、作業方法の全面変更など)は、全体を再評価することが求められる。変更のたびに「この作業工程の変化で新たなハザードは生まれるか」を確認する習慣をつけることが肝心だ。

Q. RA実施後、残留リスクはどう管理するか?

すべてのリスクをゼロにすることは現実的に不可能だ。対策後も残るリスク(残留リスク)は、その存在・内容・理由を明示して記録し、作業員への周知(安全教育・朝礼)とPPEの着用によって管理する。残留リスクの説明責任が問われることがあるため、「なぜこの対策にしたか」の根拠を残しておくことが重要だ。

Q. リスクアセスメントとKYT(危険予知訓練)の違いは?

RAは作業前に体系的にリスクを評価・記録する「管理的プロセス」、KYTは日々の作業前に現場で危険を話し合い感受性を高める「教育的プロセス」だ。RAで見えたリスクをKYTの題材に使い、KYTで気づいた新たなハザードをRAに反映するという相互補完の関係にある。KYTシートテンプレートと4ラウンド法も参考にしてほしい。

まとめ

リスクアセスメントは「表を埋める義務作業」ではなく、現場の危険を見える化し、優先順位をつけて手を打つ意思決定のプロセスだ。全工程を改めて整理すると——

  1. ハザードの特定:過去のヒヤリ・作業観察・チェックリストで危険源を広く拾う
  2. リスクの見積もり:加算法またはマトリクス法で重篤度×可能性を数値化する
  3. 優先度づけ:点数の高い順に対策の優先順位を決める
  4. 対策の実施:STOP原則に従い、本質的安全化→工学的→管理的→PPEの順で対策を講じる
  5. 記録と更新:記録を保存し、作業変更・ヒヤリ発生のたびに見直す

このサイクルをデジタルで効率化したい場合は、AnzenAIがRA表・安全書類の自動生成を支援する。また、ヒヤリハットとRAを連動させたい場合は、安全ポスト+のヒヤリ→4M分類→RA更新の流れを試してほしい。まずはリスクアセスメント表テンプレートをダウンロードして、手元の現場で一工程から始めるのが最も確実な一歩だ。

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