ISO45001は、2018年3月に発行された労働安全衛生に関する国際規格である。その前身にあたるOHSAS18001(英国規格)は2021年9月に移行期限を迎え、有効な認証としては失効している。「まだOHSAS18001の知識しかない」「ISO45001との違いがよくわからない」という担当者は少なくない。
この記事では、両規格の違いを比較表で示しながら、ISO45001の取得・維持の進め方を整理する。規格の正確な要件は必ず規格本文・認証機関で確認してほしいが、まず全体像をつかむ手がかりとして活用してほしい。規格の基本的な位置づけについては、ISO45001の概要も合わせて参照するとわかりやすい。
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OHSAS18001とは|ISO45001の前身規格
OHSAS18001(Occupational Health and Safety Assessment Series 18001)は、英国規格協会(BSI)が主導して1999年に策定した職業安全衛生マネジメントシステムの仕様書である。ISO規格ではなく、複数の国家規格機関・審査機関が合意して作った民間の業界標準という位置づけだった。
日本でも多くの製造業・建設業がこの認証を取得し、元請けからの要求事項として浸透した。ただし「ISO規格ではない」ことから国際的な整合性に課題があり、各国の関連法規や他のISOマネジメントシステム(ISO9001・ISO14001)との統合も難しかった。
これを受けて国際標準化機構(ISO)がOHSAS18001に代わる国際規格としてISO45001を策定。2018年の発行から3年間の移行期間を経て、2021年9月11日にOHSAS18001の全認証が失効した。現在、職業安全衛生マネジメントシステムの国際認証はISO45001のみとなっている。
ISO45001とOHSAS18001の違い|比較表
両規格の主な相違点を以下の表に整理する。規格改訂の背景と変更点を正確に理解するには規格本文の参照が必要だが、実務上の「変わったポイント」の概要として参考にしてほしい。
| 比較項目 | OHSAS18001 | ISO45001 |
|---|---|---|
| 規格の性質 | 民間業界標準(BSI主導) | 国際標準(ISO発行) |
| 発行年 | 1999年(2007年改訂) | 2018年 |
| 有効性 | 2021年9月に失効 | 現在有効 |
| 規格構造 | 独自章立て | 上位構造(HLS)準拠 |
| ISO9001・14001との統合 | 難しい | 共通章立てで容易 |
| リスクとリスクアセスメント | 危険源特定・リスクアセスメントが中心 | 「リスク及び機会」の概念が拡張 |
| 利害関係者の要求事項 | 限定的 | 明示的に求められる |
| 労働者の参加 | 推奨レベル | 協議・参加の仕組みとして要件化 |
| 組織のコンテキスト | 規定なし | 内外の課題・ステークホルダー分析が必須 |
| リーダーシップ | マネジメントの代表者(管理者代理)が担う | トップマネジメントの直接関与を要求 |
| 心理社会的リスク | 明示的な言及なし | 概念として包含(ISO45003が補完) |
| 機会(Opportunity) | 扱いなし | リスクと並列で「機会」の検討を求める |
上位構造(HLS)とは何か
ISO45001の最大の変更点の一つが「上位構造(High Level Structure:HLS)」への対応だ。HLSとは、ISO9001・ISO14001など主要なISOマネジメントシステム規格が共通して採用する章立ての骨格である。
共通の章立て(4章:組織のコンテキスト、5章:リーダーシップ、6章:計画、7章:支援、8章:運用、9章:パフォーマンス評価、10章:改善)を採用することで、複数のマネジメントシステムを統合運用しやすくなる。品質・環境・安全衛生の3システムを統合審査している企業にとっては、文書管理や内部監査の効率化につながる。
リスクアセスメントの位置づけの変化
OHSAS18001では「危険源の特定→リスクアセスメント→コントロール」という流れが中心だった。ISO45001では、この流れを維持しつつ「リスク及び機会」という概念が加わった。単に「危険を排除する」だけでなく、安全衛生マネジメントの改善につながる「機会」も積極的に検討することが求められている。
リスクアセスメントのやり方では実務的な手順を詳しく解説している。
利害関係者と労働者参加の強化
ISO45001では「利害関係者(workers and other interested parties)の要求事項及び期待」の把握が要求される。OHSAS18001では主に従業員を対象としていたが、ISO45001では請負業者・顧客・規制当局・地域社会なども視野に入れることが明示された。
また、労働者の「協議(Consultation)」と「参加(Participation)」が独立した要求事項として設けられた。単に「参加させること」だけでなく、安全衛生に関する意思決定への関与を仕組みとして整備することが求められる。
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OHSAS18001からISO45001への移行のポイント
OHSAS18001の認証は既に失効しているため「移行の手続き」は現在は不要だが、OHSAS18001の知識・体制をベースにISO45001を取得・運用する場合の主要な対応ポイントを整理する。
1. 組織のコンテキストを文書化する
ISO45001では、組織の内外の課題(事業環境・法令要件・文化・社会的期待など)と利害関係者の要求事項を分析・文書化することが求められる。OHSAS18001にはなかった要求であり、既存の文書体系への追加が必要になる。
2. リーダーシップ要求事項の見直し
OHSAS18001では「管理者代表」が安全衛生マネジメントを代表することが一般的だったが、ISO45001ではトップマネジメント自身が具体的な役割と責任を担うことが求められる。経営者コミットメントの「形式的なサイン」から、実質的な関与へのシフトが必要だ。安全管理規程の作り方も参照してほしい。
3. 「機会」の検討プロセスを追加する
安全衛生マネジメントシステムの改善につながる「機会」(例:新技術の導入、業務プロセスの見直し、労働者の健康増進施策)を定期的に検討・記録するプロセスが必要になる。
4. 労働者参加の仕組みを整備する
ミーティングへの参加や提案制度だけでなく、「誰が・どのような場面で・どのように意思決定に関与するか」を手続きとして明確にする。安全委員会の運営で具体的な運営方法を扱っている。
5. 心理社会的リスクへの対応
ISO45001は心理社会的リスク(過重労働・ハラスメント・職場のストレスなど)を労働安全衛生リスクとして包含している。詳細な対応方法はISO45003(心理社会的リスクに関するガイドライン)が補完しているため、ISO45003とメンタルヘルスも合わせて確認するとよい。
ISO45001の認証取得の進め方
ステップ1:現状のギャップ分析
ISO45001の要求事項と自社の現状を照らし合わせ、対応が必要な領域を洗い出す。認証機関が提供するギャップ診断サービスを活用するのも効果的だ。
ステップ2:マネジメントシステムの構築・文書整備
- 安全衛生方針の制定(トップマネジメントが署名)
- 組織のコンテキスト・利害関係者の要求事項の文書化
- リスクアセスメント手順の整備(リスクアセスメントのやり方参照)
- 目標・計画の設定
- 手順書・記録様式の整備
ステップ3:運用・教育・内部監査
システムを実際に運用しながら記録を蓄積する。定期的な内部監査で要求事項への適合状況を確認し、マネジメントレビューで経営層が結果を評価する。新入社員への安全教育や安全管理規程の作り方が参考になる。
ステップ4:第三者認証審査
認証機関に申請し、第1段階(文書審査)・第2段階(実施状況審査)の審査を受ける。認証取得後は定期的なサーベイランス審査(通常年1回)と3年ごとの更新審査が必要になる。
規格の正確な要件は、ISO45001規格本文・認証機関・専門コンサルタントで必ず確認してください。本記事は概要・目安の参考情報であり、要求事項の解釈や適合判定は認証機関の判断によります。
よくある質問
Q. OHSAS18001の認証を持っていた会社は今どうすれば?
OHSAS18001の認証は2021年9月11日に全て失効しています。現在も職業安全衛生マネジメントシステムの認証を維持・活用したい場合は、ISO45001を新規取得する必要があります。「移行」ではなく「新規取得」の手続きになります。
Q. ISO45001取得に必要な期間・コストの目安は?
規模・業種・既存の管理体制によって大きく異なります。一般的には、システム構築・運用の準備期間として6か月〜1年程度、審査費用は機関・規模によって異なります。認証機関に事前見積もりを依頼するのが確実です。
Q. 中小企業でもISO45001を取得できる?
規格の要求事項は規模を問わず適用されますが、要求事項の「達成方法」は組織の規模に応じて柔軟に解釈できます。小規模組織向けの簡略化したアプローチを採用している認証機関もあります。取得の目的(元請けからの要求、入札要件、社内管理強化など)を明確にして判断することをお勧めします。
Q. ISO14001・ISO9001と統合できる?
はい。ISO45001はHLSに準拠しているため、ISO9001(品質)・ISO14001(環境)と共通章立てで統合運用・統合審査が可能です。既に複数のISO認証を保有している企業は、統合審査によるコスト削減も検討する価値があります。
Q. リスクアセスメントはどの程度の頻度で実施する?
ISO45001では、危険源の特定とリスクアセスメントを「定期的に、かつ変更が生じた場合」に実施することが求められます。具体的な頻度は組織が決定しますが、新しい業務・設備の導入時、事故・ヒヤリハット発生後、作業環境の変化時には都度実施するのが実務上の原則です。
まとめ
ISO45001とOHSAS18001の主な違いと移行のポイントを整理した。
- 規格の位置づけ:OHSAS18001は民間業界標準、ISO45001はISO発行の国際規格。OHSAS18001は2021年9月に失効済み
- HLS(上位構造):ISO9001・ISO14001との統合運用が容易になり、文書・内部監査の効率化につながる
- 組織のコンテキスト:内外の課題・利害関係者の要求事項の分析・文書化が新たに必要
- トップマネジメントの関与:管理者代理任せではなく、経営者の実質的なコミットメントが求められる
- 労働者参加の強化:意思決定への参加を仕組みとして整備することが要求事項
- リスク及び機会:危険排除だけでなく、改善の「機会」の検討も求められる
- 心理社会的リスク:ストレス・ハラスメントなども安全衛生リスクとして扱うことが明確化
OHSAS18001の知識・体制がある組織であれば、ギャップは「コンテキスト分析」「トップの直接関与」「労働者参加の手続き化」に集中することが多い。規格要求事項の正確な解釈は認証機関に確認しながら進めてほしい。
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