解体・改修工事で石綿(アスベスト)の事前調査を誰が行うか——。改正石綿障害予防規則(以下「改正石綿則」)は、この「誰が」に資格要件を設け、段階的に施行してきた。建築物については2023年10月1日に完全施行済みであり、工作物については2026年1月1日施行の規制が始まっている。さらに調査結果の電子報告制度、罰則の明確化と、規制は多層的に重なる。
この記事では、事前調査者に求められる資格の全体像、電子報告制度の対象と手順、違反時の罰則を実務目線で整理する。法改正全体の流れは2026-2027 安全衛生法改正 完全ガイドで解説している。
安全書類の作成・管理に手間がかかっていないか。 AnzenAI はKY活動記録や安全書類の作成を効率化するAIツールだ。石綿関連書類の整備にも活用できる。まずは無料で試してほしい。
改正の背景|なぜ今、石綿則が厳しくなるのか
石綿(アスベスト)は耐火・断熱・防音に優れた素材として、高度経済成長期の建築・工作物に広く使われた。しかし吸入による中皮腫・肺がんのリスクが判明し、2006年に製造・使用が原則禁止された。
問題は「すでに使われた建材」の残存だ。建築ストックの老朽化により解体・改修工事は増え続けており、作業時に飛散した石綿繊維を吸い込む事故リスクは高まっている。さらに「調査不十分のまま工事を開始する」事業者が一部に存在したことが規制強化の直接的な背景となった。
これを受け、改正石綿則は以下の方向で段階的に規制を強化してきた。
- 事前調査を実施できる者を「資格者」に限定
- 調査結果の行政への電子報告を義務化
- 違反行為への罰則を明確化
改正スケジュールの全体像
| 施行日 | 主な内容 |
|---|---|
| 2020年10月1日 | 成形板・塗材の除去工事での切断・破砕禁止、隔離措置義務化 |
| 2021年4月1日 | 事前調査の記録保存(3年)、除去後の取り残し確認義務化、写真記録義務化 |
| 2022年4月1日 | 一定規模以上の工事に係る事前調査結果の電子報告義務開始 |
| 2023年10月1日 | 建築物の事前調査を「建築物石綿含有建材調査者」等に限定(完全施行) |
| 2026年1月1日 | 工作物の事前調査を「工作物石綿事前調査者」等に限定(施行済み) |
出典:厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト「改正石綿則のポイント」(執筆時点2026年6月)
事前調査者の資格要件
建築物の場合(2023年10月1日以降着工)
建築物の解体・改修等の作業を行う際は、以下のいずれかの者が事前調査を実施しなければならない。
| 区分 | 調査できる範囲 |
|---|---|
| 特定建築物石綿含有建材調査者 | すべての建築物 |
| 一般建築物石綿含有建材調査者 | 一戸建て住宅および共同住宅の内部 |
| 令和5年9月30日までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者 | 登録当時の区分に準ずる |
講習は厚生労働省が登録した機関で実施される。修了証の写しを調査終了日から3年間保存することが義務である。
工作物の場合(2026年1月1日以降着工)
令和5年厚生労働省令第2号の施行により、一定の工作物(反応槽・ボイラー・配管設備・煙突等の特定工作物、および塗料・補修材の除去を伴う工事)の事前調査は、以下のいずれかの資格者が行う必要がある。
- 工作物石綿事前調査者(工作物石綿事前調査者講習の修了者)
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 令和5年9月30日までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者
工作物石綿事前調査者講習は、建築物石綿含有建材調査者講習等登録規程に基づき新設された。講習の登録機関は石綿総合情報ポータルサイト(mhlw.go.jp)で確認できる。
注意:調査者要件の細部(告示で定める「同等以上の能力を有すると認められる者」の範囲等)は個別に所轄の労働基準監督署または厚生労働省へ確認することを強く推奨する。
事前調査結果の電子報告制度
2022年4月1日以降に着工する工事のうち、以下の規模を超えるものは元請事業者が事前調査結果を電子システムで報告する義務がある(労働安全衛生法・大気汚染防止法の双方に基づく)。
| 工事の種類 | 報告対象となる規模 |
|---|---|
| 建築物の解体工事 | 解体対象の床面積の合計 80㎡以上 |
| 建築物の改修・補修工事 | 請負代金の合計額 100万円以上(税込) |
| 工作物の解体・改修・補修工事 | 請負代金の合計額 100万円以上(税込) |
出典:環境省「石綿事前調査結果の報告について」、厚生労働省「4月1日から石綿の事前調査結果の報告制度がスタートします」
報告の流れ
- 事前調査の実施:着工前に資格者が調査し、結果を記録
- 電子システムへの入力:「石綿事前調査結果報告システム」(ishiwata-houkoku.mhlw.go.jp)から入力
- 報告先:労働基準監督署 + 都道府県・政令市(1回の操作で両方に送信)
- 記録保存:調査結果・報告記録を3年間保存
石綿が含有されていなかった場合も、対象規模に該当する工事であれば報告義務がある点に注意が必要だ。
罰則強化のポイント
改正石綿則における違反行為には、労働安全衛生法および大気汚染防止法の罰則規定が適用される。
| 違反行為 | 根拠法令 | 罰則(参考) |
|---|---|---|
| 事前調査の未実施・資格者以外による調査 | 労働安全衛生法(石綿則) | 50万円以下の罰金 |
| 調査結果の記録・保存義務違反 | 労働安全衛生法(石綿則) | 50万円以下の罰金 |
| 電子報告義務違反(大防法) | 大気汚染防止法 | 3か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 除去工事計画の届出違反 | 労働安全衛生法 | 50万円以下の罰金 |
※ 罰則の適用は個別の違反態様・故意過失の有無等により異なる。正確な罰則規定は所轄労働基準監督署・都道府県等に確認すること。
実務上の重要ポイント:罰則規定が存在するだけでなく、行政指導・改善命令の対象にもなる。元請事業者は下請事業者の調査体制を含め、工事全体の法令適合を管理する責任がある。
免責事項:本記事は一般的な参考情報であり、法的・専門的な助言を提供するものではありません。石綿障害予防規則および大気汚染防止法の解釈・適用、個別工事への対応については、所轄の労働基準監督署・都道府県環境担当窓口・厚生労働省の最新情報を必ずご確認ください。記載内容は執筆時点(2026年6月)の情報に基づきます。
よくある質問
Q. 自社の解体作業に「事前調査者」がいない場合はどうすればよいか?
資格者を社内で育成するか、外部の資格者に調査を委託する必要がある。2023年10月(建築物)・2026年1月(工作物)以降は資格者以外が事前調査を行うことは認められない。調査委託の場合も、委託先の調査者の資格証明書の写しを3年間保存する義務がある。
Q. 石綿が含まれていないことが明らかな建物でも調査が必要か?
資格者による文書調査・目視調査を実施し、「含有なし」と記録する必要がある。「明らかに含まれていない」という判断自体も、資格者が根拠をもって行わなければならない。また、一定規模以上の工事であれば報告義務も発生する。
Q. 工作物の事前調査者と建築物の調査者は別の資格か?
別の資格制度だが、特定建築物石綿含有建材調査者・一般建築物石綿含有建材調査者も工作物の事前調査を行うことができる。工作物石綿事前調査者は工作物に特化した新設資格である。詳細は石綿総合情報ポータルサイトで確認してほしい。
Q. 報告義務のある規模に達しない小規模工事でも調査は必要か?
電子報告義務は規模要件があるが、事前調査そのものには規模要件がない。建築物・工作物の解体・改修等を行う際は、規模にかかわらず事前調査を実施し記録を保存する義務がある。
Q. 下請事業者が直接工事を行う場合、報告義務は元請か下請か?
大気汚染防止法に基づく電子報告の義務者は「発注者から直接解体等工事を請け負った事業者(元請事業者)」である。労安法に基づく報告も元請事業者が行う。下請事業者が調査を実施した場合でも、報告義務は元請にある。
まとめ
改正石綿則の実務対応を整理すると——
- 建築物の事前調査は2023年10月1日以降、「建築物石綿含有建材調査者」等の資格者が必須(完全施行済み)
- 工作物の事前調査は2026年1月1日以降、「工作物石綿事前調査者」等の資格者が必須(施行済み)
- 電子報告は2022年4月1日以降、一定規模以上の工事で元請事業者に義務あり(建築物解体80㎡以上・改修100万円以上等)
- 記録保存は調査終了日・調査者の資格証明書写しを含め3年間
- 罰則は労安法・大防法の両方から適用される可能性がある
現場で迷ったときは「誰が調査したか・記録が残っているか・報告したか」の3点を確認することが、コンプライアンス管理の基本となる。
関連記事
- 2026-2027 安全衛生法改正 完全ガイド
- 石綿含有建材の除去作業と特別教育
- 粉じん作業の健康障害防止
- 粉じん障害防止規則のポイント
- 解体工事の安全管理
- 特定化学物質障害予防規則の概要
- 化学物質リスクアセスメントの進め方
- 自律的化学物質管理への移行
現場改善に役立つ関連アプリ
| アプリ名 | 概要 | こんな課題に |
|---|---|---|
| AnzenAI | KY活動記録・安全書類作成を効率化するAIツール | 石綿関連書類・安全書類の作成負担が重い |
| 安全ポスト+ | QRコードで匿名ヒヤリハット報告、AIが4M自動分析 | 石綿作業のヒヤリハットを確実に拾いたい |
| WhyTrace+ | なぜなぜ分析で根本原因を究明 | 石綿関連インシデントの再発防止に |
| PlantEar | 設備異音検知AIで予兆保全 | 設備解体前の状態把握・予兆検知 |