化学物質・有害物

PRTR制度|化学物質排出移動量届出の実務とSDS制度との関係

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#PRTR#化管法#化学物質排出#SDS#化学物質管理#リスクコミュニケーション

「うちの工場は今年からPRTR届出の対象になるかもしれない」「届出書を書けと言われたが何から手を付ければいいかわからない」——化管法(PRTR法)は、製造業・建設業・廃棄物処理業など幅広い事業者に影響する制度でありながら、対象判定と届出実務の壁が高い。本記事では、化管法の体系から第一種・第二種指定化学物質の整理、様式第1の作成手順、SDS制度との接続、公表データの活用までを実務目線で解説する。

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化管法とPRTR制度の全体像

化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)は、1999年に制定された日本の化学物質管理の基幹法のひとつだ。正式名称が長いため「化管法」または「PRTR法」と通称される。

PRTRは Pollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出移動登録)の略称で、事業者が環境中(大気・水域・土壌)に排出した化学物質、および廃棄物として事業所外へ移動させた化学物質の量を、自主的に把握し国へ届け出る仕組みを指す。集計データは国が公表し、社会全体での化学物質管理改善とリスクコミュニケーションに活用される。

化管法が定める3つの柱

化管法には大きく3つの柱がある。

制度内容法的根拠
PRTR制度第一種指定化学物質の排出量・移動量を把握し国へ届出化管法 第5条
SDS制度指定化学物質を含む製品の譲渡時に安全データシート(SDS)とラベルを交付化管法 第14条
国による集計・公表届出データを集計し、事業所別・物質別の排出量を公表化管法 第8条・第9条

PRTR制度とSDS制度は同じ化管法の中で連動している。「届出対象になる物質」と「SDS交付義務がかかる物質」はおおむね重なっており、両制度を一体で理解することが化学物質管理者の出発点になる。

2023年4月の対象物質改正

化管法の指定化学物質は、リスク評価の進展に応じて改正される。直近の大きな改正は2023年4月施行で、第一種指定化学物質は 462物質、第二種指定化学物質は 100物質 となった(出典:経済産業省・化管法対象物質一覧)。改正前(462→515といった案も検討されたが最終的に462)と比べて、PFAS関連物質や一部の有機溶剤、農薬の追加・削除が行われている。

「以前は対象外だった」という認識のままだと届出漏れになるリスクがあるため、毎年度の取扱物質リスト見直しが化学物質管理者の年次業務として欠かせない。

第一種・第二種指定化学物質の違い

化管法の対象物質は2区分に分かれている。両者の違いを押さえておくことが、自社の届出義務判定の第一歩になる。

第一種指定化学物質(462物質)

第一種指定化学物質とは、「人の健康・生態系に有害なおそれがあり、かつ環境中に広く存在すると認められる、または将来存在することが見込まれる物質」を指す。PRTR届出義務とSDS交付義務の 両方 が課される。

代表的な第一種指定化学物質:

政令番号物質名CAS番号主な用途
1亜鉛の水溶性化合物めっき・顔料
53エチルベンゼン100-41-4塗料・接着剤の溶剤
71キシレン1330-20-7塗料・溶剤
80クロム及び三価クロム化合物めっき・革なめし
300トルエン108-88-3塗料・接着剤
392ノルマル-ヘキサン110-54-3抽出溶剤・接着剤
411ホルムアルデヒド50-00-0樹脂・防腐剤

第一種のなかでもさらに「特定第一種指定化学物質」(発がん性・変異原性等が高い15物質、例:ベンゼン、エチレンオキシド等)が指定されており、これらは取扱量1トン未満でも0.5トン以上であれば届出対象になる、より厳しい基準が適用される。

第二種指定化学物質(100物質)

第二種指定化学物質は、第一種に準じる有害性は認められているが、現時点で環境中の存在量が比較的限定的な物質群だ。SDS交付義務のみ が課され、PRTR届出義務はない。

第二種は「将来的に環境中に拡散する可能性があるため、譲渡時点での情報伝達を確保しておく」という性格の物質群といえる。届出対象ではないとはいえ、SDS交付を怠れば化管法第14条違反となるため、サプライヤー側の管理は必要だ。

自社取扱物質の判定方法

自社で取り扱う化学品が指定化学物質に該当するかは、製品名ではなくCAS番号 で判定するのが原則だ。サプライヤーから受け取ったSDSの項目3(組成・成分情報)に記載されたCAS番号を、経済産業省公表の対象物質一覧と照合する。

実務的には、NITE化学物質総合情報提供システム(CHRIP)で物質名・CAS番号を検索すると、化管法上の指定区分が即座に確認できる。

PRTR届出対象事業者の要件

第一種指定化学物質を取り扱っていれば即座に届出義務が発生するわけではない。化管法施行令で定められた 業種要件・規模要件・取扱量要件 の3つをすべて満たす事業者のみが届出対象となる。

3つの要件

要件1:対象業種に該当すること

化管法施行令では、24業種が対象業種として指定されている。主な業種は以下のとおりだ。

  • 製造業(金属製品、化学工業、輸送用機械器具、電子部品 等)
  • 鉱業
  • 電気業・ガス業
  • 下水道業
  • 鉄道業
  • 倉庫業(一部)
  • 燃料小売業(給油所等)
  • 廃棄物処理業
  • 医療業(一定規模以上)
  • 高等教育機関(大学等の研究機関)

建設業は通常対象外だが、廃棄物処理を伴う一部業務は対象になりうる。自社業種の日本標準産業分類コードを起点に判定するのが確実だ。

要件2:常用雇用者数21人以上

事業者単位(事業所単位ではない)で常用雇用者が21人以上であることが要件となる。パート・アルバイトも常用雇用とみなされる場合があるため、雇用契約形態の確認が必要だ。

要件3:年間取扱量1トン以上

事業所単位で、第一種指定化学物質の年間取扱量が1トン以上であること。特定第一種指定化学物質 の場合は年間取扱量0.5トン以上に基準が下がる。

「取扱量」には、製品原料として使用した量、製造した量、混合物の成分として含まれていた量がすべて含まれる。製品中に含まれて出荷された分も「取扱量」にカウントする点がポイントだ。

要件判定フロー

[業種が24業種に該当?] ─ NO → 届出対象外
        │ YES

[常用雇用者21人以上?] ─ NO → 届出対象外
        │ YES

[第一種指定化学物質を取扱?] ─ NO → 届出対象外
        │ YES

[年間取扱量1トン以上?      ┐
 特定第一種は0.5トン以上?] ─┴─ YES → ★届出対象事業者
        │ NO

   届出対象外

このフローを年度初めに各事業所で実施し、結果を化学物質管理者の業務記録として残しておくのが実務的だ。


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届出実務|様式第1の作成手順

届出対象事業者は、毎年度の取扱実績を翌年度の 6月30日まで に都道府県経由(または直接)で国に届け出る必要がある。届出書式は「様式第1(特定第一種指定化学物質等取扱事業者の届出書)」だ。

届出までの年間スケジュール

時期実施事項
4〜6月前年度実績の集計準備(取扱量・排出量・移動量計算)
4〜6月算出根拠資料(購入記録・SDS・排出係数)の整理
6月末まで様式第1の作成・提出(電子届出または書面)
翌3月頃国による集計結果の公表

集計準備は4月開始では間に合わないケースが多い。実務的には、年度内(前年度の3月)から取扱量データの月次集計を継続しておくことが現実的だ。

様式第1の主要記載項目

様式第1には以下の情報を記載する。

区分記載内容
事業者情報法人名・代表者氏名・所在地・常用雇用者数
事業所情報事業所名・所在地・主たる業種コード
対象物質政令番号・物質名・年間取扱量(kg単位)
環境への排出量大気・公共用水域・土壌・埋立地への排出量
事業所外移動量廃棄物として移動した量・下水道へ移動した量

排出量・移動量はすべて キログラム単位、整数値 で記載する。1キログラム未満の場合は「0」または「1」に丸めるルールがあり、桁数を間違えると差し戻しの原因になる。

排出量・移動量の算定方法

PRTR届出では、化学物質の排出量・移動量を算定する方法として4つのアプローチが公式に認められている(出典:経済産業省・PRTR排出量等算出マニュアル)。

算定方法内容適用例
物質収支投入量 - 製品中の量 - 回収量 = 排出量反応プロセスで原料の使用量と製品の含有量が明確な場合
実測値排出口での濃度測定×排出量から算定大気排出口で濃度測定を実施している場合
排出係数業界団体・経産省公表の係数×取扱量塗装工程の溶剤揮発量等
その他合理的方法文献値・専門家判断等上記が困難な場合

実務上は「排出係数法」を使うケースが最も多い。日本塗料工業会、印刷インキ工業会など業界団体が公表する係数を用いる方法は、業界標準として認められている。

営業秘密の取扱い

製品の組成情報が営業秘密に該当する場合、化管法第6条に基づき「営業秘密に該当する旨」を申し出ることで、公表時に物質名を秘匿してもらう申請が可能だ。ただし、届出書自体には物質名を記載する必要があり、秘匿はあくまで公表段階での話だ。

届出書の提出方法

提出方法は3通りある。

  1. 電子届出PRTR排出量等届出電子システムからオンライン提出(推奨)
  2. 書面届出:事業所所在地の都道府県経由で書面提出
  3. 磁気ディスク届出:CSV等のファイル形式で都道府県経由提出

近年は電子届出が主流で、過去年度のデータを引き継いだ作成支援機能もあり、書類作成負担が大幅に軽減されている。

SDS制度との接続|化管法第14条

PRTR制度と並ぶ化管法のもう一方の柱がSDS制度だ。化管法第14条は、第一種または第二種指定化学物質を含有する製品を事業者間で譲渡・提供する際に、SDSの交付とラベル表示を義務付けている。

SDS交付義務の対象範囲

化管法のSDS交付義務がかかる条件は次のとおりだ。

条件内容
物質第一種または第二種指定化学物質
含有量閾値製品中に1質量%以上(特定第一種は0.1質量%以上)
取引形態事業者間の譲渡・提供(個人消費者向けは対象外)

家庭用品(消費者向け洗剤等)は化管法のSDS交付義務の対象外だが、業務用として事業者に販売する場合は対象になる。「BtoB取引で1質量%以上含有する場合は原則SDS交付」と覚えておくと実務的に判断しやすい。

安衛法SDSとの違い

SDSの交付義務は化管法だけでなく、労働安全衛生法(第57条の2)にも規定がある。両者の関係は以下のとおりだ。

観点化管法SDS(第14条)安衛法SDS(第57条の2)
目的環境リスク管理・PRTR制度との連動労働者のばく露防止
対象物質第一種・第二種指定化学物質(合計562物質)リスクアセスメント対象物(2026年4月までに約2,900物質)
含有量閾値1質量%以上(特定第一種は0.1)安衛法施行令別表で個別規定
規制機関経済産業省・環境省厚生労働省

実務上、両法の対象物質は重複が多く、1枚のSDSで両法令を満たす形で作成するのが一般的だ。JIS Z 7253:2019に準拠したSDSであれば、両法令の要求事項を網羅できる構成になっている。

化管法と安衛法のSDS制度の詳細な使い分けや、JIS Z 7253の16項目の読み方はSDSの読み方|化学物質安全データシート16項目の実務活用ガイドで整理している。

ラベル表示義務

化管法第14条は、SDS交付と並んで「容器・包装へのラベル表示」も義務付けている。記載必須項目は次のとおりだ。

  • 化学品の名称
  • 含有する指定化学物質の名称・含有量
  • 取扱い上の注意(GHS準拠の絵表示・シグナルワード推奨)
  • 譲渡者の氏名・住所

GHSラベル要素(ピクトグラム、危険有害性情報、注意書き等)は化管法上は努力義務だが、安衛法第57条では危険有害物質について義務化されている。両法令の要求を踏まえ、JIS Z 7253準拠でGHSラベルを作成する運用が実務標準となっている。

公表データの活用とリスクコミュニケーション

PRTR制度の最大の特徴は、届出データが国によって集計・公表される点にある。事業者単位・物質単位・地域単位で排出量・移動量が公表されるため、地域住民・取引先・投資家など多様なステークホルダーがアクセスできる。

公表データの参照方法

国の公表データはNITE-CHRIPのPRTR検索ページから検索できる。事業者名・都道府県・市区町村・物質名・業種等で絞り込みが可能だ。自社の届出データだけでなく、同業他社・同地域の事業所のデータも参照できるため、ベンチマーキングに活用できる。

リスクコミュニケーションへの応用

公表データの存在は、事業者にとって「説明責任」を伴う反面、「透明性に基づく信頼構築」のチャンスでもある。

リスクコミュニケーションの実施例:

取組み内容
地域住民向け説明会工場見学とPRTR排出量の説明、削減取組み紹介
CSR/サステナビリティ報告書PRTR排出量推移をESG情報として開示
取引先への情報提供サプライチェーンでの化学物質情報共有(chemSHERPA等)
従業員教育自社の排出量データを教材化し、化学物質取扱の重要性を共有

「届出は出して終わり」ではなく、データを社内外のコミュニケーションに活用することで、化学物質管理レベルそのものが向上する好循環が生まれる。

排出量削減への取り組みPDCA

公表データを起点に、削減目標を設定するPDCAサイクルが実務的に有効だ。

  1. Plan:前年度の排出量データを分析し、上位物質・上位工程を特定。中期削減目標を設定
  2. Do:代替物質への置換、密閉化、回収装置の導入等の対策を実施
  3. Check:翌年度のPRTR集計で削減効果を確認
  4. Act:効果が出た対策は他事業所へ展開、効果不十分な対策は見直し

このサイクルの過程で、現場の作業者からの気づきが対策の優先順位付けに役立つ。「この工程で揮発が多い気がする」「換気フードが古い」といった現場感覚は、定量データだけでは見えない改善ポイントを示してくれる。

匿名で報告できる仕組みを併設しておくと、PRTR排出量データを補完する「定性情報」が集まる。化学物質管理者の判断材料が増え、対策の精度が高まる。

よくある質問

Q. PRTR届出を怠るとどうなるか?

化管法第23条に基づき、届出義務違反は20万円以下の過料の対象となる。直接的な罰則は小さいが、国のシステム上で過去年度の届出履歴が管理されているため、未届出年度があると行政指導の対象になることがある。また、サプライチェーンでの化学物質情報開示要求(chemSHERPA等)で、PRTR届出を行っていることが事実上の取引条件になっているケースも増えている。

Q. 取扱量1トン未満の事業者はPRTRを意識しなくてよいか?

届出義務はないが、SDS交付義務(化管法第14条)は取扱量に関係なく適用される。「届出は不要だがSDSを取引先から求められた」というケースは頻発するため、対象物質を取り扱う限り化管法の存在は意識しておく必要がある。また、年度途中で取扱量が増えて1トンを超える可能性がある場合は、月次で取扱量をモニターしておくことが推奨される。

Q. 廃棄物として処分した量はどう扱うか?

廃棄物処理業者へ引き渡した量は「事業所外への移動量」として届出する。マニフェスト(産業廃棄物管理票)の交付量と整合させて算定するのが実務的だ。なお、廃棄物中の指定化学物質含有量が明確でない場合は、業界団体が公表する標準的な含有率を用いて推定する方法が認められている。

Q. PRTR届出と安衛法のリスクアセスメント記録は連動させられるか?

連動させるのが効率的だ。安衛法のリスクアセスメント対象物質約2,900物質と、化管法第一種指定化学物質462物質はかなり重複している。社内の化学物質管理台帳を一元化し、CAS番号をキーに「PRTR届出対象か」「リスクアセスメント対象か」「SDS交付義務の有無」を一覧管理する仕組みを作っておくと、両法令への対応が一気通貫で進む。

Q. 改正で対象物質が変わったらどう対応するか?

施行日以降の取扱量を新リストでカウントし直す。経済産業省は改正のたびに「物質追加・削除一覧」と経過措置を公表するため、施行前後の取扱量集計ルールを必ず確認する必要がある。社内の管理台帳は施行日に合わせて改訂し、現場の作業者にも「これからこの物質は届出対象になる」という変更点を伝達することが望ましい。

まとめ

化管法(PRTR法)は、製造業をはじめとする幅広い事業者に届出義務とSDS交付義務を課す制度だ。本記事のポイントを整理しておく。

  • 化管法には3つの柱:PRTR制度(排出量・移動量届出)、SDS制度(譲渡時の情報伝達)、国による集計公表が連動して機能する。
  • 第一種(462物質)と第二種(100物質)の違い:第一種は届出義務とSDS交付義務、第二種はSDS交付義務のみ。物質の判定はCAS番号で確実に行う。
  • 届出対象事業者の3要件:対象24業種・常用雇用者21人以上・年間取扱量1トン以上(特定第一種は0.5トン以上)をすべて満たす場合に届出義務が発生する。
  • 様式第1の提出は毎年6月末まで:排出量・移動量はキログラム単位で集計し、電子届出システムから提出するのが現在の主流。
  • SDS交付義務(第14条):第一種・第二種指定化学物質を1質量%以上(特定第一種は0.1質量%以上)含有する製品の事業者間譲渡時に必須。安衛法SDSと一体で運用するのが実務標準。
  • 公表データはリスクコミュニケーションの材料:地域住民・取引先への説明、CSR報告、社内教育に活用することで、化学物質管理レベルが向上する好循環が生まれる。

PRTR制度は「届出」というアウトプットだけを見ると重い事務作業に見えるが、自社の化学物質取扱実態を可視化し、改善のPDCAを回す起点として活用すれば、コンプライアンス対応を超えた価値を生む制度だ。現場からの気づきと組み合わせ、定量データと定性情報の両輪で化学物質管理を進めていきたい。

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