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業務上疾病の認定|物理的因子・化学物質・腰痛・脳心臓疾患・精神障害

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業務上の負傷は「いつ・どこで・何が起きたか」が明確で、労災判定もシンプルなことが多い。しかし業務上疾病は違う。何年もかけて忍び寄る難聴、5年・10年経って発症するじん肺、長時間労働の末に発症する脳出血——。発症と業務の因果関係を「どのように証明するか」がボトルネックになる。本記事では、業務上疾病の法的定義から労基則別表第1の2に列挙された23項目、近年急増する脳心臓疾患・精神障害の認定基準まで、申請担当者が手元に置ける実務リファレンスとして整理する。

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業務上疾病とは — 労基法第75条と労基則別表第1の2

業務上疾病とは、労働者が業務に起因して罹患した疾病であり、労働基準法第75条第2項および同法施行規則第35条・別表第1の2に基づいて認定される疾患の総称である。

労基法第75条第1項は「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」と定め、続く第2項で「業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める」としている。この「厚生労働省令」が労働基準法施行規則であり、第35条で別表第1の2を引用する形で具体的な疾病リストを示している。

別表第1の2の23項目(概要)

項目区分主な疾病例
第1号業務上の負傷に起因する疾病外傷性後遺障害、外傷後感染
第2号物理的因子による疾病騒音性難聴、振動障害、電離放射線障害、暑熱障害、減圧症 等
第3号作業態様に起因する疾病業務上腰痛、頸肩腕症候群、職業性のヘルニア 等
第4号化学物質等による疾病有機溶剤中毒、鉛・カドミウム等の金属中毒、酸欠 等
第5号粉じんを飛散する場所における業務じん肺(けい肺・石綿肺等)およびその合併症
第6号細菌・ウイルス等の病原体による疾病B型・C型肝炎、結核、COVID-19等の感染症
第7号がん原性物質・がん原性因子・がん原性工程による疾病石綿による中皮腫・肺がん、ベンゼンによる白血病 等
第8号長時間にわたる業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務脳血管疾患・虚血性心疾患等(脳心臓疾患)
第9号強い心理的負荷を伴う業務うつ病等の精神障害(精神障害)
第10号前各号に掲げるもののほか、厚労大臣の指定する疾病個別告示で随時追加
第11号その他業務に起因することの明らかな疾病包括規定(個別判断)

出典:労働基準法施行規則 別表第1の2、厚生労働省「業務上疾病の範囲」(2026年5月時点)

第1号から第11号までの大項目の下に細目があり、合計で約100種類超の疾患が列挙されている。「23項目」と呼ばれることがあるのは、項目区分の数え方による(細目を独立項目として数える流派と、大項目11号で数える流派がある)。実務上は、自分が扱う疾病が「どの号のどの細目に該当するか」を確認することが認定可否を判断する出発点だ。

なお最後の第11号(包括規定)の存在により、別表に明示されていなくても「業務に起因することの明らかな疾病」であれば認定の道が残されている。これが「業務上疾病の認定は最終的に個別判断」と言われる根拠だ。

物理的因子による疾病(第2号)

騒音性難聴

騒音性難聴とは、85dB以上の連続的な騒音に長期間暴露されることで、内耳の有毛細胞が不可逆的に損傷し、両側性・高音域から始まる感音性難聴を呈する疾患である。

認定の主要要件は次の3点だ。

  • 騒音作業(おおむね85dB以上)への5年以上の従事歴
  • 両耳の聴力レベルが4,000Hzで40dB以上、または平均聴力レベルが30dB以上の感音性難聴
  • 業務との因果関係(他の難聴原因の除外)

請求時には作業環境測定記録や個人騒音暴露計データが鍵になる。騒音計測の記録がない事業場では認定が困難になるため、騒音職場では作業環境測定(労働安全衛生法第65条)を必ず実施し、記録を保管しておくことが必須だ。

振動障害(白ろう病)

振動障害とは、チェーンソー・グラインダー・ハンドブレーカー等の振動工具を使用する業務により、手指の血行障害(レイノー現象)・末梢神経障害・運動器障害を生じる疾患である。「白ろう病」は手指が蒼白になる症状の俗称で、振動障害の典型症状の一つだ。

認定要件:

  • 振動工具取扱業務への相当期間(おおむね1年以上)の従事
  • 手指の蒼白発作(寒冷誘発)・末梢神経症状・運動器症状のいずれか
  • 暴露時間と症状の整合性(昭和50年労働省通達「振動障害の認定基準について」)

電離放射線障害

電離放射線障害とは、X線・γ線・中性子線等の電離放射線への被ばくにより生じる急性放射線症候群・白血病・甲状腺がん・皮膚がん等の総称である。原子力施設・医療現場(X線技師)・非破壊検査業務等で発生する。

被ばく線量の累積記録(個人線量計データ・線量管理記録)が認定の決定的証拠になる。事業者は電離放射線障害防止規則に基づき、5年・30年保存義務を負う。

暑熱障害(熱中症)

業務上の熱中症は、別表第1の2第2号の「暑熱の場所における業務による熱中症」として認定される。建設業・製造業の屋外作業や、製鉄・ガラス工場等の高温作業環境で多く発生する。

認定上のポイントは「業務遂行中の発症」と「暑熱環境への暴露」の客観的証拠であり、当日のWBGT値・作業時間・水分塩分補給状況の記録が重要となる。WBGT測定と熱中症対策については熱中症対策の最新基準|WBGT管理と現場でできる予防策で詳しく解説している。

減圧症(潜函病)

減圧症とは、高圧下作業(潜水・潜函作業等)から急激な減圧によって血液中の窒素が気泡化し、関節痛・神経症状・呼吸器症状を生じる疾患である。海洋土木・トンネル工事・潜水作業で発生する。高気圧作業安全衛生規則に基づく減圧表の遵守と作業記録の保管が認定上の要となる。

化学物質等による疾病(第4号・第5号・第7号)

じん肺

じん肺とは、粉じんを長期間吸入することにより肺胞・末梢気道に線維化(瘢痕化)が進行し、咳・痰・呼吸困難を呈する不可逆的な肺疾患の総称である。けい肺(遊離けい酸)・石綿肺・炭肺・溶接工肺など、原因物質によって細分される。

じん肺法に基づく定期的なじん肺健康診断(粉じん作業従事者は1〜3年ごと)で「じん肺管理区分」が決定される。管理区分は1〜4の4段階で、合併症(肺結核・続発性気管支炎・原発性肺がん等)を併発した管理区分2〜4が労災給付の対象だ。

管理区分状態労災給付
管理1じん肺所見なし対象外
管理2第1型のじん肺所見あり、肺機能障害なし合併症がある場合のみ対象
管理3第2〜3型のじん肺所見あり合併症併発で対象
管理4著しい肺機能障害あり療養補償・休業補償等の対象

出典:じん肺法第4条・第13条、厚生労働省「じん肺管理区分」(2026年5月時点)

じん肺の特徴は「潜伏期間が長く、退職後・離職後に発症することが多い」点だ。粉じん作業に従事した経歴があれば、退職後でも管理区分決定の申請ができる。離職後の健康診断費用は事業者負担ではなく、本人がじん肺健康診断機関で受けることになる。

有機溶剤中毒

有機溶剤中毒とは、トルエン・キシレン・ノルマルヘキサン・トリクロロエチレン等の有機溶剤を吸入・経皮吸収することで、中枢神経症状(頭痛・めまい・意識障害)・末梢神経障害・肝障害・腎障害等を生じる中毒症である。塗装・印刷・接着・脱脂洗浄等の業務で発生する。

有機溶剤中毒予防規則に基づく作業環境測定(6か月以内ごと)・特殊健康診断(6か月以内ごと)の記録が認定の証拠基盤となる。

鉛中毒・カドミウム中毒

鉛中毒とは、金属鉛・鉛化合物の吸入・摂取により貧血・腹痛(鉛疝痛)・末梢神経障害(橈骨神経麻痺)・腎障害を生じる中毒症である。蓄電池製造・鉛精錬・鉛系塗料の取扱い等で発生する。鉛中毒予防規則に基づく特殊健康診断で血中鉛濃度・尿中δ-ALA濃度をモニタリングする。

カドミウム中毒とは、カドミウムおよびその化合物の吸入・経口摂取により急性肺水腫(急性中毒)または腎尿細管障害・骨軟化症「イタイイタイ病」様症状(慢性中毒)を生じる中毒症である。電池・顔料・メッキ業務で発生する。

がん原性物質による疾病(第7号)

別表第1の2第7号は、石綿・ベンゼン・電離放射線等のがん原性物質・がん原性因子・がん原性工程による職業がんを認定対象としている。代表例:

  • 石綿曝露による中皮腫・肺がん・喉頭がん・卵巣がん
  • ベンゼン曝露による白血病
  • 塩化ビニルモノマー曝露による肝血管肉腫
  • 印刷工程で使用されたオルト-トルイジン等による膀胱がん

職業がんは曝露から発症まで数十年の潜伏期間があるのが特徴で、過去の業務経歴の追跡が認定の決め手になる。


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業務上腰痛の認定基準(昭和51年通達)

業務上腰痛とは、業務遂行中の負傷または業務上の過重な作業負担により発症した腰痛であり、昭和51年10月16日付労働省労働基準局長通達「業務上腰痛の認定基準等について」(基発第750号)に基づいて認定される。

災害性の腰痛と非災害性の腰痛

通達は腰痛を2つに大別している。

① 災害性の原因による腰痛

業務遂行中に突発的な事故的事象(重量物の持ち上げ・転倒・墜落等)があり、それを契機に発症した腰痛。次の2要件を満たす必要がある。

  • 腰部の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、業務遂行中の突発的な出来事によって生じたと医学上認められること
  • 腰部に作用した力が、腰痛を発症させ、または既存の腰痛を著明に増悪させたと医学上認められること

② 災害性の原因によらない腰痛

突発事故はないが、相当長期にわたる重量物取扱業務・腰部に著しい負担のかかる業務に従事したことによる腰痛。次のいずれかに該当することが要件だ。

  • 約20kg程度以上の重量物または重量の異なる物品を繰り返し中腰の姿勢で取扱う業務に相当期間(おおむね10年以上)従事した労働者に発症した慢性的な腰痛
  • 腰部に過度の負担のかかる不自然な姿勢を持続する業務に長期間従事した労働者に発症した慢性的な腰痛

実務上のチェックポイント

腰痛は労災請求件数の多い疾病の一つだが、認定率は決して高くない。理由は「業務以外の要因(加齢性変性・私的な日常動作・既往症)との切り分けが難しい」ためだ。請求時には次の証拠を揃えておくべきだ。

  • 発症日時・状況の具体的記録(5W1H)
  • 取扱った物品の重量・取扱頻度・作業姿勢
  • 過去の腰痛既往(あれば)と業務との関連性
  • 主治医による業務との関連性に関する意見

腰痛予防には作業姿勢の改善・重量物取扱基準の遵守(厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」)が基本だ。重量物取扱業務の標準では、男性労働者は体重のおおむね40%以下、女性労働者は男性の許容基準の60%以下とされている。

脳・心臓疾患の認定基準(令和3年改正)

脳・心臓疾患の認定基準とは、業務上の過重な負荷により脳血管疾患・虚血性心疾患等が発症した場合の業務起因性判断基準であり、令和3年9月14日付で約20年ぶりに改正された(厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」)。別表第1の2第8号に対応する。

対象疾病

疾病区分具体的疾病
脳血管疾患脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症
虚血性心疾患等心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、重篤な心不全(令和3年改正で追加)、大動脈解離

過重負荷の3類型

認定基準は、発症に至る業務上の過重負荷を3類型で評価する。

① 異常な出来事(発症直前から前日まで)

極度の緊張・興奮・恐怖・驚愕等の強度の精神的負荷、緊急救助活動等での身体的負荷、急激で著しい作業環境変化(炎暑・寒冷・低酸素)の3区分。発症直前から前日までの間に該当事象があれば、業務との関連性が認められる。

② 短期間の過重業務(発症前おおむね1週間)

発症前おおむね1週間に特に過重な業務に就労した場合。例:1週間に40時間以上の時間外労働、休日が確保されない連続勤務、不規則勤務の集中など。

③ 長期間の過重業務(発症前おおむね6か月間)

労災実務で最も焦点となる類型。「過労死ライン」と呼ばれる時間外労働の基準は次のとおり。

時間外労働の水準業務との関連性
発症前1〜6か月平均で月45時間以内関連性は弱い
発症前1〜6か月平均で月45時間超月数とともに関連性が徐々に強まる
発症前2〜6か月平均で月80時間超関連性が強い
発症前1か月間に月100時間超関連性が強い

出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準」(令和3年9月改定)

令和3年改正のポイント

改正の最大の意義は「労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合評価」が明文化されたことだ。月80時間に届かなくても、勤務間インターバルが短い・深夜業の頻度が高い・出張多忙・身体的負荷の強い業務などの要因が組み合わさると、より少ない時間外労働でも認定されうる。

実務的には「タイムカード上の残業時間だけで安全側か否かを判断する」発想は通用しない。長時間労働と脳心臓疾患のリスク管理については長時間労働とメンタルヘルス|うつ・脳心臓疾患を防ぐ管理職の責任で深掘りしている。

精神障害の認定基準(令和5年改正)

精神障害の認定基準とは、業務上の強い心理的負荷により精神障害が発症した場合の業務起因性判断基準であり、令和5年9月1日付で改正された(厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」)。別表第1の2第9号に対応する。

認定の3要件

精神障害が業務上と認定されるには、次の3要件すべてを満たす必要がある。

  1. 認定基準の対象となる精神障害(ICD-10のF2〜F4等)を発病していること
  2. 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷および個体側要因により発病したとは認められないこと

心理的負荷評価表の仕組み

業務による心理的負荷の強度は、「特別な出来事」(極度の長時間労働・生死に関わる事故等)に該当しない場合は、「具体的出来事」を心理的負荷評価表に照らして「強・中・弱」の3段階で評価する。複数の出来事や継続的な状況がある場合は総合評価される。

「強」と評価される代表的な出来事:

  • 重度の病気やケガをした
  • 業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした
  • 会社で起きた事件について、責任を問われた
  • ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた
  • 同僚等から、暴行または(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた
  • 上司とのトラブルがあった(強と評価される場合)
  • セクシュアルハラスメントを受けた
  • カスタマーハラスメントを受けた(令和5年改正で追加)

令和5年改正の主なポイント

① カスタマーハラスメントが具体的出来事として明示

顧客・取引先・施設利用者等から著しい迷惑行為を受けたことが、心理的負荷の具体的出来事として表に追加された。

② 感染症等の危険業務への従事が追加

感染症や健康被害リスクが高い業務への従事が、心理的負荷の要因として追加された。

③ 既存不調の「悪化」認定の拡充

業務による強い心理的負荷で既存の精神障害が悪化したと認められれば、悪化部分について業務起因性が認定されるようになった。

長時間労働との関係

時間外労働だけで「強」と評価されるケース:

  • 発病直前の1か月におおむね160時間超の時間外労働を行った
  • 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った
  • 発病直前の連続2か月間に1か月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った
  • 発病直前の連続3か月間に1か月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った

令和6年度の労災補償状況(厚労省公表)では精神障害の支給決定件数が1,055件と過去最高を更新した。請求段階の事案は3,780件にのぼり、対策が現場の発生に追いついていない実情を示している。

業務上疾病の労災請求の流れ

業務上疾病の労災請求は、業務災害(負傷)と基本的な流れは同じだが、「業務起因性の証明」に時間がかかるため、認定までの期間が長い傾向にある。

標準的な手続きの流れ

ステップ内容期間目安
① 受診・診断主治医による診断・診断書取得数日〜数週間
② 様式の選択と作成業務災害は様式5号・8号・10号系、通勤災害は16号系数日
③ 事業主証明請求書の事業主証明欄に記入してもらう数日
④ 労基署提出管轄の労働基準監督署に請求書を提出
⑤ 労基署調査業務起因性の調査・専門医意見聴取・事業場立入調査6か月〜2年程度
⑥ 認定または不認定の決定決定通知

長期間の暴露が要件となるじん肺・職業がん・脳心臓疾患・精神障害は、調査に1年以上を要するケースが多い。給付の様式選択や記入実務については労災保険給付の種類|療養・休業・障害・遺族の給付内容と申請手続きで詳しく解説している。

不認定時の審査請求

労基署の決定(不認定または等級認定)に不服がある場合、不服申立ての制度が用意されている。

① 審査請求:決定があったことを知った日の翌日から3か月以内に、都道府県労働局に置かれた「労働者災害補償保険審査官」に対して審査請求する。

② 再審査請求:審査官の決定に不服がある場合、決定書送付の翌日から2か月以内に「労働保険審査会」(厚生労働省内)に再審査請求する。

③ 行政訴訟:審査会の裁決に不服がある場合、裁決送付の翌日から6か月以内に処分取消訴訟を提起できる。

業務上疾病の認定では、医学的因果関係の評価が争点になりやすく、不認定後に審査請求で覆るケースは決して稀ではない。請求にあたっては、職場の暴露記録・作業日誌・健診結果・産業医意見書を準備し、必要に応じて社労士・弁護士・専門医のサポートを受けることが望ましい。

時効に注意

労災保険給付の時効は給付の種類によって異なる(労災保険法第42条)。

  • 療養(補償)給付・休業(補償)給付・葬祭料:2年
  • 障害(補償)給付・遺族(補償)給付・傷病(補償)年金:5年

業務上疾病は発症時期の特定が難しく、時効起算点が争点になることがある。「症状が出始めた時」ではなく、「症状について療養の必要性が生じたと認められる時」が起算点と解されている。退職後に発症する疾病(じん肺・職業がん等)でも、時効内であれば請求可能だ。


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よくある質問

Q. 業務上疾病と業務上負傷の違いは何か?

業務上負傷は事故的事象による身体損傷(転倒・墜落・挟まれ等)で、発生時期と原因が明確だ。業務上疾病は長期間の業務遂行の累積結果として発症する疾病で、発症時期と業務の因果関係の証明が論点になる。労災保険給付の対象となる点は同じだが、認定までの調査期間は業務上疾病のほうが長い傾向にある。

Q. 退職後に発症した業務上疾病でも労災請求できるか?

できる。じん肺・職業がん・振動障害・騒音性難聴等、長い潜伏期間を経て発症する疾病では、退職後・離職後の請求が一般的だ。請求にあたっては、過去の事業場での業務内容・暴露状況を証明する資料(健診結果・作業環境測定記録・同僚の証言・退職時の業務内容書類)を可能な限り収集する。時効起算点は「症状について療養の必要性が生じたと認められる時」と解されているため、退職から年数が経っていても請求できる場合がある。

Q. 業務上腰痛は認定されにくいと聞いた。事業場が準備すべきものは?

腰痛は業務以外の要因(加齢性変性・私的活動・既往症)との切り分けが争点になるため、認定率は他の業務上疾病と比較して低い傾向がある。事業場として準備すべき記録は次のとおり。①重量物取扱基準書・作業手順書、②作業姿勢・取扱重量の記録、③腰痛健康診断(重量物取扱者の特殊健診)の結果、④過去の腰痛報告履歴(ヒヤリハット含む)。日々のヒヤリハットレポートが「業務遂行中に腰部の負担が継続的に発生していた」客観的証拠となる。

Q. 精神障害の労災請求に必要な書類は?

請求書(様式第5号/8号/10号系または通勤災害用の16号系)に加え、主治医の診断書、発症前6か月間の出来事を整理した時系列メモ、勤怠記録(タイムカード・残業申請書)、上司・同僚の証言、ハラスメントがあった場合は録音・メール・チャット履歴等の証拠が重要だ。労基署の調査では事業場への立入調査・関係者の事情聴取が行われるため、「事業主による事業場証明」と「労働者本人が用意する客観証拠」の両輪が認定の決め手になる。

Q. 業務上疾病で不認定だった場合、再度請求できるか?

同一の事由で同一の給付について再度請求することは原則できないが、決定に対する不服申立て(審査請求→再審査請求→行政訴訟)の道は用意されている。新たな医学的知見・追加証拠が出てきた場合は、これらの審査手続きで主張することになる。なお、別個の疾病・別個の給付種類については独立に請求できるため、たとえば不認定だった疾病が後日悪化して別の合併症が発生した場合、その合併症について新規請求することは可能だ。

まとめ

業務上疾病の認定は、業務上負傷とは異なり「証明」の戦いだ。実務上の重要ポイントは次の4点だ。

① 該当号と細目を特定する — 労基則別表第1の2のどの号・細目に該当するか確認することが、認定可否判断の出発点。包括規定(第11号)の存在も視野に入れる。

② 認定基準を正確に把握する — 騒音性難聴(昭和50年通達)、業務上腰痛(昭和51年通達)、脳心臓疾患(令和3年改正)、精神障害(令和5年改正)など、疾病ごとに認定基準が明確化されている。最新版を参照することが必須。

③ 暴露・負荷の客観的証拠を蓄積する — 作業環境測定記録・特殊健診結果・勤怠記録・ヒヤリハット報告は、いざという時の認定資料になる。ヒヤリハットが日常的に記録される現場ほど、業務起因性の証明がしやすい。

④ 時効内に動く — 療養・休業は2年、障害・遺族は5年。退職後発症型の疾病でも時効起算点は「療養の必要性が生じた時」だが、請求を後回しにしない。

業務上疾病は、認定のハードルが高いからこそ、日常の記録こそが救いの綱になる。事故が起きてから慌てるのではなく、暴露・負荷の客観データを蓄積し続ける運用体制を、現場に組み込んでおきたい。

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