管理体制・組織

安全管理者の役割と選任要件|業種・規模別の必置と職務

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#安全管理者#労働安全衛生法#選任時研修#建設業#製造業#安全衛生推進者

「衛生管理者と産業医は選任したが、安全管理者は誰だっけ」——常時50人以上の事業場でこの問いが出てきたら要注意だ。安全管理者は全業種で必要なわけではなく、安衛令第3条が列挙する「特定の業種」に限定された選任義務だが、対象業種に該当しているのに未選任のまま運用しているケースは中小製造業・建設業の現場で珍しくない。さらに2017年4月から選任時研修9時間が義務化され、有資格者を社内に確保する難易度は上がっている。本記事では安衛法第11条を起点に、対象業種・選任人数・専属要件・職務範囲を整理し、衛生管理者(G05)・産業医(G04)との役割分担、10〜49人規模の安全衛生推進者との階層関係まで実務目線で解説する。

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安全管理者とは — 安衛法第11条の位置付け

安全管理者は、労働安全衛生法第11条第1項に基づき、事業者が選任する管理者だ。条文上の役割は「安衛法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項」を管理することと定められている。安衛法第10条第1項は総括安全衛生管理者の職務を列挙した条文で、危険・健康障害防止措置、安全衛生教育、健康診断、労働災害の原因調査・再発防止策などを含む。このうち**「安全」に関する技術的部分**を、現場目線で具体化するのが安全管理者の役回りだ。

産業医が「健康」、衛生管理者が「衛生」、安全管理者が「安全」を分担するというのが3者の基本構図になる。安衛則第6条には、安全管理者の具体的な職務として次のような事項が列挙されている。

  • 建設物・設備・作業場所または作業方法に危険がある場合の応急措置または適当な防止措置
  • 安全装置・保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検および整備
  • 作業の安全についての教育および訓練
  • 発生した災害原因の調査および対策の検討
  • 消防および避難の訓練
  • 作業主任者その他安全に関する補助者の監督
  • 安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録
  • その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所で行われる場合における、これら労働者の作業に関する必要な措置

加えて安衛則第6条第2項は、安全管理者に**「作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない」と定めている。産業医の月1回巡視と異なり、安全管理者の巡視は頻度に上限・下限の規定がない**が、実務上は日次〜週次で現場を回るのが一般的だ。

罰則は、選任義務違反で50万円以下の罰金(安衛法第120条第1号)。労働災害が発生した際は、安全管理者の選任有無・職務遂行の実態が安全配慮義務違反の判断材料として民事訴訟で問われる。

選任対象業種 — 安衛令第3条が列挙する「特定業種」

安全管理者の選任義務は、産業医・衛生管理者と違って全業種一律ではない。これが最大の特徴であり、見落としポイントでもある。安衛法第11条第1項は「政令で定める業種・規模」と定め、具体的な業種を安衛令第3条が列挙している。

安衛令第3条の対象業種

安衛令第3条が定める安全管理者選任業種は、次のとおりだ(事業場規模はいずれも常時50人以上の労働者を使用する事業場)。

区分対象業種
林業・鉱業・建設業林業、鉱業、建設業
製造業製造業(物の加工業を含む)。ただし業種を問わずほぼ全製造業が対象
エネルギー・通信電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業
運輸各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、運送業(道路貨物運送業・水運業・航空運輸業・鉄道業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業

ここから読み取るべきポイントは2つある。

ポイント1: 対象業種は「危険を伴う作業」を含む業種に絞られている

建設業・製造業・林業・鉱業・運送業など、機械や重量物・高所・有害物質を扱う業種が中心だ。一方、対象外となる代表的な業種は金融・保険業、医療・福祉、教育、宿泊・飲食サービス業、不動産業、情報通信業(通信業を除く)、専門・技術サービス業、公務などになる。デスクワーク中心のオフィスや、医療機関・学校は、原則として安全管理者の選任義務がない。

ポイント2: 「ほぼ全製造業」が対象になる

製造業はほぼ全業種が対象で、食品・衣服・印刷・金属・機械・電子・化学・窯業・木材・紙パルプなどが網羅されている。「うちは食品加工だから危険物がない」と思っていても、選任義務はかかるので注意したい。

対象業種かどうかの判定フロー

自社が選任義務を負うかは、次の3ステップで判定する。

  1. 業種コードの確認 — 日本標準産業分類(JSIC)の中分類で自社事業を特定する
  2. 安衛令第3条との照合 — 列挙されている業種に該当するか確認する
  3. 規模ライン(50人)の確認 — 常時使用労働者数が50人以上か

3つすべてYESなら選任義務あり、いずれか1つでもNOなら原則として選任義務はない(50人未満は安全衛生推進者の選任義務、後述)。

規模別の選任人数と専属要件 — 安衛則第4条

安全管理者の選任人数専属の要否は、安衛則第4条が定めている。事業場規模が大きくなるほど複数選任・専属化が必要になる構造だ。

安衛則第4条第1項の選任人数

事業場規模(常時労働者数)選任人数
50〜299人1人以上
300〜499人1人以上
500〜999人1人以上(複数選任が望ましい運用)
1000人以上安衛則第4条第1項により業種・規模に応じて複数選任

実務上は規模が大きい事業場(特に建設業・大規模製造業)では、安全管理者を複数選任して部門別・シフト別に配置するのが標準的だ。

専属要件 — 「専属」の意味と対象

「専属」とは、その事業場に所属し他の事業場の業務を兼ねない形態を指す。安衛則第4条第1項第2号は、安全管理者のうち少なくとも1人を専属にすることを求めている(労働衛生コンサルタントの場合等を除く)。

さらに次の業種・規模に該当する事業場は、専属の安全管理者を増員する義務がある(安衛則第4条第1項第3号、別表第1)。

業種専属化が強化される規模ライン
建設業、有機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業常時300人以上
無機化学工業製品製造業、化学繊維製造業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業常時500人以上
紙・パルプ製造業、窯業土石製品製造業、自動車整備業、機械修理業常時1000人以上
その他の安衛令第3条業種常時2000人以上

つまり建設業や化学工業・道路貨物運送業は、規模300人ラインで専属安全管理者が必須となる。中堅規模の建設会社・運送会社が「兼任の総務部長が安全管理者を兼ねている」という運用を続けていると、専属要件違反になる可能性がある点を押さえておきたい。

専任要件(安衛則第4条第1項第4号)

専属に加えて、次の事業場では**「専任」**の安全管理者(=その業務に専従し他業務を兼任しない安全管理者)も必要となる。

  • 常時使用労働者数300人以上の建設業、有機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業の事業場
  • 常時使用労働者数500人以上の上記以外の安衛令第3条業種の事業場

「専属」は事業場所属を意味し、「専任」は職務専従を意味する。専属かつ専任の安全管理者を確保する義務がある事業場では、安全管理を本務とする社員の配置が必須となる。

安全管理者の資格要件 — 安衛則第5条と選任時研修9時間

産業医に「日医認定産業医」資格があるのと同様、安全管理者にも資格要件がある。安衛則第5条が定める要件は、次のいずれかに該当することだ。

安衛則第5条の資格要件

  1. 学歴+実務経験
    • 大学・高等専門学校で理科系の正規課程を修めて卒業した者で、その後産業安全の実務に2年以上従事した経験を有する者
    • 高等学校・中等教育学校で理科系の正規課程を修めて卒業した者で、その後産業安全の実務に4年以上従事した経験を有する者
  2. 労働安全コンサルタント — 労働安全コンサルタント試験の合格者
  3. 厚生労働大臣が定める者 — 7年以上の産業安全実務経験者など、告示で定める要件を満たす者

学歴ルートに「文系卒」は含まれない点が見落とされやすい。事務系出身者を安全管理者にする場合は、労働安全コンサルタント試験合格や、産業安全実務7年以上のルートを通る必要がある。

安全管理者選任時研修 — 2017年4月義務化、9時間

2014年12月の安衛則改正により、安全管理者の選任時研修が義務化された(2017年4月施行)。安衛則第5条第3号で、選任の要件として厚生労働大臣が定める研修を修了していることが追加された格好だ。

研修内容は厚生労働省告示「安全管理者選任時研修カリキュラム」で定められており、合計9時間で次の科目を学ぶ。

科目時間
安全管理3時間
事業場における安全衛生の水準の向上を図るための取組2時間
危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置等3時間
安全教育1時間

研修は中央労働災害防止協会(中災防)・建設業労働災害防止協会(建災防)・各都道府県労働基準協会等が実施している。受講料は1万5,000円〜2万円程度で、修了証は終身有効(更新義務なし)。

この研修義務は2017年3月31日時点で安全管理者として在職していた人にも実質的に課されている(経過措置はあったが既に終了)。新規選任時はもちろん、研修未修了のまま在職している場合は速やかに受講させる必要がある。

労働安全コンサルタント・専門資格との関係

労働安全コンサルタント試験合格者は選任時研修の受講が免除される(労衛コン本人が資格要件を満たすため)。一方、技術士(機械・建設・化学等)や第一種衛生管理者免許は安全管理者の資格要件にはならない点に注意したい。資格を兼務する場合でも、安全管理者の選任時研修は別途必要だ。

選任手続き — 14日以内の選任と労基署報告

安全管理者の選任タイミングと手続きは、産業医・衛生管理者と共通の枠組みだ。

選任までのステップ

  1. 対象業種・規模の判定 — 安衛令第3条業種に該当し、常時50人以上かを確認
  2. 資格要件の確認 — 学歴+実務経験/労衛コン合格/選任時研修修了
  3. 選任 — 規模・業種要件に達してから14日以内に選任
  4. 労基署への報告 — 「安全管理者選任報告」(安衛則様式第3号、衛生管理者・産業医と共通様式)を遅滞なく所轄労基署に提出
  5. 社内周知 — 安全衛生委員会の構成員として周知、職場巡視権限を明確化

実務では、衛生管理者・産業医の選任と同時に手続きを進めることが多い。「50人を超えた事業場で、3者まとめて選任→1枚の様式第3号で同時報告」が標準フローだ。

安全衛生委員会への参画

常時50人以上の事業場で安衛令第3条業種に該当する場合は、安全衛生委員会の設置義務がある(安衛法第19条、衛生委員会との統合運用)。安全管理者は委員会の構成員として指名するのが標準で、月1回以上の委員会で職場巡視結果・労災発生状況・是正措置のレビューを担う。

委員会では、安全管理者が「危険」、衛生管理者・産業医が「衛生・健康」、産業医が「医学的所見」を持ち寄って議論する構造になる。3者の役割が交錯せず補完し合うように議題を設計するのが、委員会運営の鍵だ。


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業種別の役割と運用イメージ

安全管理者の職務範囲は法定で共通だが、業種ごとに重点が大きく異なる。代表的な4業種について、実務目線で運用イメージを整理する。

建設業 — 元方安全衛生管理者・店社安全衛生管理者と一体運用

建設業では、安衛法第15条系の統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者・店社安全衛生管理者という別建ての体制があり、これが事業場単位の安全管理者と並走する。

  • 単一現場(事業場)で50人超の建設業:事業場の安全管理者元方安全衛生管理者(混在作業の場合)
  • 本社・支店として50人超:店社単位の安全管理者
  • 建設業300人以上の事業場:専属かつ専任の安全管理者

建設業特有のリスク(墜落・転落、重機接触、土砂崩壊、感電)に応じて、毎日朝礼・KY活動・新規入場者教育を統括する役割を負う。安全管理者選任時研修に加えて、RST講座(労働安全衛生マネジメントシステム)職長・安全衛生責任者教育を併せて受講させるのが大手ゼネコンの標準だ。

製造業 — 機械・化学・有害物のリスク管理が中心

製造業では、プレス機・産業用ロボット・フォークリフト・有機溶剤・粉じん等のリスク管理が安全管理者の主戦場になる。重要な実務は次のとおり。

  • 機械の安全装置点検(インターロック・非常停止・光線式安全装置)
  • 作業主任者(プレス機械・ボイラー・有機溶剤・特化物・粉じん作業など)の補助監督
  • リスクアセスメント(化学物質・機械・作業)の年次レビュー
  • 新規導入設備の安全評価(労働災害防止のための設備設計時の検討)
  • ヒヤリハット・労災原因の分析と再発防止策の立案

化学工業(有機化学工業製品製造業・化学肥料製造業)は規模300人で専属・専任要件がかかるため、リスクアセスメントを専従で回す体制が必須になる。

運送業(道路貨物運送業) — 専属専任要件が早期に発動

道路貨物運送業は規模300人ラインで専属・専任の安全管理者が必要になる業種だ。輸送中の労働災害(交通事故)に加えて、構内作業(積み下ろし・フォークリフト・パレット・荷崩れ・墜落)のリスク管理が中心となる。

  • 構内交通安全(フォークリフト動線・歩行者通路の分離)
  • 荷役作業の墜落・転落防止(テールゲートリフタ・墜落防止器具)
  • 長時間労働とそれに伴う注意散漫リスク(運行管理者との連携)
  • ドライバーの健康起因事故対策(睡眠時無呼吸症候群対応、産業医と連携)

運行管理者(道路運送法)と安全管理者(安衛法)は別資格・別職務だが、現場では同一人物が兼ねるケースもある。役割の切り分けと記録の管理を明確にしておく必要がある。

林業 — 小規模事業場でも安全管理者必置になりやすい

林業は1事業場あたりの規模が小さいことが多いが、伐木・造材・集材作業の重大災害率が極めて高い業種だ。50人超の事業場では選任義務が発動するが、林業特有の難しさは「常時雇用50人」を満たす単一事業場が少なく、選任義務が発生しない代わりに安全衛生推進者(後述)の責任が重くなる点にある。

50人を超える林業事業場では、伐木等業務特別教育、刈払機特別教育、チェーンソー作業の安全衛生教育の管理を安全管理者が統括する。

衛生管理者・産業医との役割分担 — 3者の責任範囲を区別する

50人超の事業場(安衛令第3条業種)では、安全管理者・衛生管理者・産業医の3者を選任することになる。役割の重複と分担を明確化しないと「誰がやるのか分からない」グレーゾーンが発生する。

3者の役割比較

項目安全管理者衛生管理者(G05)産業医(G04)
根拠条文安衛法第11条安衛法第12条安衛法第13条
対象業種安衛令第3条業種のみ全業種全業種
選任規模50人以上50人以上50人以上
主管領域安全(危険防止)衛生(健康障害防止)健康(医学的判断)
巡視頻度規定なし(実務日次〜週次)週1回以上(安衛則第11条)月1回(条件付き隔月)
資格要件学歴+実務2〜4年+研修9時間 等第一種・第二種衛生管理者免許 等日医認定産業医 等
専属要件規模・業種で発動(建設業300人等)規模1000人以上で原則専任規模1000人以上で専属

役割が重なる場面と切り分け方

職場巡視 — 安全管理者は「危険」、衛生管理者は「衛生」、産業医は「健康」の視点で巡視する。3者で同日に巡視するか、それぞれ別日に巡視して情報を共有するかは事業場の運用次第。共通の巡視チェックリストに3者の所見欄を設けて、安全衛生委員会で議題化するのが整理しやすい。

労災・ヒヤリハットの原因分析 — 物理的・機械的要因は安全管理者、衛生環境要因は衛生管理者、健康・心理的要因は産業医が主担当。複合要因の労災(例:長時間労働による注意散漫+機械接触)では3者の連携が必須になる。

安全衛生教育 — 新規入場者教育・特別教育のうち安全分野は安全管理者、衛生分野は衛生管理者、健康教育は産業医が担う。年間教育計画を安全衛生委員会で承認し、3者が分担表に基づいて実施するのが標準だ。

安全衛生推進者との階層関係 — 10〜49人規模の選任義務

50人未満の小規模事業場では安全管理者・衛生管理者の選任義務がない代わりに、安全衛生推進者(または衛生推進者)の選任義務がある。これは中小企業が見落としやすい論点だ。

安全衛生推進者の根拠

安衛法第12条の2に基づき、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場で、安衛令第3条業種に該当する場合は安全衛生推進者を選任する義務がある。安衛令第3条業種以外(金融・医療・教育・サービス業など)で10〜49人規模の事業場は、衛生推進者の選任義務となる(安全分野は対象外)。

規模安衛令第3条業種非対象業種
10〜49人安全衛生推進者衛生推進者
50人以上安全管理者+衛生管理者+産業医衛生管理者+産業医

安全衛生推進者・衛生推進者は安全管理者ほど厳格な資格要件はなく、安衛則第12条の3で次のいずれかが求められる。

  • 大学・高等専門学校卒業後、安全衛生実務1年以上の経験
  • 高校卒業後、安全衛生実務3年以上の経験
  • 安全衛生実務5年以上の経験
  • 安全衛生推進者養成講習(中災防等が実施、約10時間)の修了
  • 上記と同等の知識・経験を有する者

養成講習修了ルートが現実的で、中災防の安全衛生推進者養成講習は2日間(約10時間)・受講料1万円台で受講できる。

階層関係のイメージ

事業場規模に応じた管理体制の階層は次のとおりだ。

規模必要な選任
〜9人法定選任義務なし(自主的な安全衛生管理)
10〜49人安全衛生推進者(または衛生推進者)
50〜99人安全管理者+衛生管理者+産業医(嘱託)+安全衛生委員会
100〜299人同上、衛生管理者複数化、リスクアセスメント本格化
300〜499人同上+安全管理者の専属専任(建設業・化学工業・道路貨物運送業の場合)
500〜999人衛生管理者複数(規模に応じて)、専属専任化が他業種にも拡大
1000人〜専属産業医、衛生管理者専任化、安全管理者複数化

「10人を超えたら推進者、50人を超えたら管理者と産業医」というのが中小企業オーナーの覚えやすい目安だ。

中小企業の実務対応 — 兼任・社内育成・外部活用

50〜100人規模の中小企業が現実的に取れる選択肢を整理する。

兼任は可能か

安全管理者は他職と兼任可能(専任要件のある事業場を除く)だ。中小製造業では工場長・製造部長・品質保証部長・総務部長などが安全管理者を兼ねるケースが多い。ただし選任時研修9時間の受講安衛則第5条の資格要件は兼任者にも適用される。

兼任で気をつけるべきは「肩書きだけで実態の職務遂行がない」状態に陥らないことだ。実務上は次の3つを最低限担保したい。

  • 巡視記録の作成 — 週1回程度の巡視チェックリストを残す
  • 安全衛生委員会での発言・記録 — 月1回の委員会で議題提示と所見を残す
  • 労災・ヒヤリハット対応 — 発生時の原因分析と対策に主体的に関わる

社内育成のロードマップ

中小企業で安全管理者を内製化する典型ルートは次のとおりだ。

ステップ期間内容
1候補者選定工場長・製造管理職・品質保証担当から選定
2学歴・実務経験の整理安衛則第5条の要件充足を確認
3選任時研修9時間中災防・建災防等の研修を受講
4補助資格の付与第一種衛生管理者免許やリスクアセスメント実務者研修を併せて取得
5選任・労基署報告様式第3号で報告、安全衛生委員会で周知
6OJT巡視同行、労災事例分析、KY活動主導等を通じて実務を習得

学歴要件で詰まる場合(文系卒で実務経験7年未満等)は、労働安全コンサルタント試験合格を目指すか、外部の労働安全コンサルタントへの一部委託を組み合わせる選択肢もある。

外部活用の選択肢

社内に資格者がいない場合の外部活用ルートは次のとおり。

  • 労働安全コンサルタント — 安全管理者の資格要件を満たすため、契約で兼任させることが可能。費用は月額10万〜30万円程度(規模・職務範囲による)
  • 業界団体のコンサル支援 — 建災防・中災防の安全診断、業界別の安全管理マニュアル提供
  • デジタルツールによる巡視・記録の効率化 — ヒヤリハット報告・KY活動・職場巡視のチェックリストをアプリ化し、限られた管理工数を最大化

中小企業の現実解は「社内に兼任者を1人立てる+ヒヤリハット集約のデジタル化+必要に応じて外部コンサル」の3点セットだ。

よくある質問

Q. 当社は卸売業だが、安全管理者の選任義務はあるか?

卸売業は安衛令第3条で「各種商品卸売業」「家具・建具・じゅう器等卸売業」が指定されており、これに該当すれば50人超で選任義務がある。一方、機械卸売業・繊維卸売業・食品卸売業等は安衛令第3条の指定業種に含まれないため、50人超でも安全管理者の選任義務はかからない(衛生管理者・産業医のみ義務)。自社の業種コードを日本標準産業分類で正確に特定することが重要だ。

Q. 安全管理者選任時研修9時間は、過去に労働安全コンサルタント試験に合格していれば免除されるか?

労働安全コンサルタント試験合格者は選任時研修が免除される(安衛則第5条第2号に基づく資格要件を満たすため、別途研修不要)。技術士・第一種衛生管理者免許等の他資格は免除対象にならない点に注意したい。

Q. 専属安全管理者が長期休職した場合、代理者を立てる必要があるか?

選任要件を継続的に満たす必要があるため、長期休職・退職の場合は14日以内に新たな安全管理者を選任し、労基署に再報告する義務がある。短期休暇(数日〜2週間程度)は代理者選任の手続きまでは求められないが、安全衛生委員会・職場巡視の実施には代行者を立てておくのが安全だ。

Q. 同一会社で複数事業場がある場合、安全管理者は事業場ごとに必要か?

選任義務は「事業場単位」で判定する。本社・支店・工場・支社ごとに、それぞれ業種・規模で判断する。本社(営業所、安衛令第3条業種に該当しない)50人と工場(製造業)40人なら、本社・工場ともに安全管理者の選任義務はない。本社が情報通信業(非対象)であっても、工場が製造業で50人超なら工場には安全管理者が必要となる。

Q. 安全管理者と総括安全衛生管理者の違いは?

総括安全衛生管理者(安衛法第10条)は、安全管理者・衛生管理者・産業医を統括する上位ポジションで、選任義務は業種に応じた一定規模(建設業100人以上、製造業300人以上、その他業種1000人以上等)からかかる。総括安全衛生管理者は「事業を統括管理する者」(工場長・所長等)が務め、その下に安全管理者・衛生管理者がぶら下がる構造だ。中小企業(50〜299人)では総括安全衛生管理者の選任義務はないが、安全管理者・衛生管理者の選任義務はあるため、両者の規模ラインを混同しないこと。

まとめ

安全管理者の選任義務と運用を5点に整理する。

  1. 対象業種は安衛令第3条で限定列挙 — 建設業・製造業・林業・鉱業・電気・ガス・運送業・卸売業等が中心。医療・教育・金融・情報通信業(通信業を除く)は対象外。自社業種をJSICで特定し、安衛令第3条に該当するかを最初に判定する。

  2. 規模ラインは50人で発動、業種により300人で専属専任化 — 50人超で選任義務、建設業・化学工業・道路貨物運送業等は300人で専属かつ専任が必要。中堅規模の建設業・運送業が見落としやすい論点。

  3. 資格要件は学歴+実務経験+選任時研修9時間 — 理科系大卒2年・高卒4年などの実務経験ルートに加え、2017年4月から選任時研修9時間が必須。文系卒は労働安全コンサルタント試験合格や実務7年ルートで対応する。

  4. 衛生管理者・産業医との3者分担を設計する — 安全(危険防止)・衛生(健康障害防止)・健康(医学的判断)の3軸で巡視・委員会・労災対応を分担。安全衛生委員会を運営の核に据える。

  5. 10〜49人規模は安全衛生推進者で代替 — 50人未満の事業場には安全衛生推進者(安衛令第3条業種)または衛生推進者(非対象業種)の選任義務がある。養成講習10時間で取得可能。50人超に成長したタイミングで安全管理者・衛生管理者・産業医の3者選任に移行する。

安全管理者は「安全に関する技術的事項」を現場目線で具体化する司令塔だ。選任しただけで終わらせず、職場巡視・リスクアセスメント・労災原因分析・安全衛生教育の4点を年間計画で回せる体制を整えることが、労災ゼロに直結する。

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